わたしのそのころの夢は、ショードッグの素晴らしい犬を作ることではありませんでした。とにかくマリンとキャンディの子供が欲しかっただけでした。今でこそ繁殖云々と御託を並べていますが当時は今ほど多くを知ってはいませんでした。後に実際に赤ちゃんを産ませるとするならと教えてくださる方がいました。・・・手取り足とり教えてくださったこの先輩の恩は忘れられません。 あまり知識もない私でしたがそれでも大きな問題がでてきました。まず、子犬がたくさん生まれたときにどうするのか・・・ 全て自分が飼う事が出来るのか?欲しいと言ってくれる人がたくさんいて困らないというわけではありませんでした。 ペットショップに買って貰う事等は考えませんでした。あんな箱に私の大事なMARINやキャンディーの赤ちゃんを入れるなんって想像もできないことでした。 そして、特にキャンディの仔は、両親チャンピオンには決してなりません。キャンディはノンタイトル犬です。相手にチャンピオンを選んでもキャンディはキャンディです。 健康面ではこれと言った問題も無く勿論血縁に遺伝疾患を持つ犬は知ってる範囲、調べられる範囲ではで見当たることはありませんでした。ブリーダーさんにも相談しました。勿論キャンディもマリンもかかりつけの獣医さんで健康診断を受けました。まったくの健康体でどこにも異常はありません。ブリーダーさん宅で生まれる仔犬は毎回見に行ってたくらいですから、ラインによってや、組み合わせによって生まれてくる仔犬の雰囲気もだいぶ頭の中に入っていました。 さて交配する前に実家や親戚友人たちにもしたくさんうまれたらもらってくれるかと聞いて回りました。 聞いてみると意外に結構欲しい人はいました。それもまさかまさかのキャンディの仔のほうが、希望者が多かったくらいです(笑)普通のショーに関わらない人は気ぐらいの高いショードッグのマリンよりもキャンディのほうか頭のいい可愛い犬に見えるのでしょう。 マリンやキャンディにどの犬を掛け合わせたいかもだいぶ決まってきました。幸いなことに、2匹は多産系ではありません。多くても一回に4頭生まれれば限界の数だろうとも思いました。ましてやキャンディは体の小さな犬です。1匹産めれば御の字とも思うこともありました(笑) この2頭は仲の良い姉妹ですがなんとヒートも同じ日にきます。交配の日までさて相手を決めなくてはなりません。 そのころマリンには、ブリーダーさんがマリンのお婿さんはこの子が良いよと言うトライの雄が輸入されていました。 マクデガミラグロ(エネライザー直子)です。マリンの相手ははこの仔に決めました。 キャンディのお婿さんは、あの憧れのアンディ(AMCHマクデガタイムバンディット)の直子のロミオ君に決めました。これでやっと『アンディ』の血を受け継ぐ犬が手に入るのです・・・さて交配後、日にちは過ぎ、おなかの中に命が誕生したのはキャンディだけでした。少しばかりがっかりしましたが何はともあれ、夢の第一歩が歩みだせそうです。 キャンディはなんと4頭もの仔犬を受胎していました。マリンも出来てしまっていたら我が家はあっという間に犬屋敷になるところでした。4頭なら全部残っても大丈夫かなと案外単純に考え、犬は安産とたかをくくっていました。 出産の日が近づいてきました。何もわからない私はブリーダーさんに色々教えてもらったり、交配先のブリーダーさんにまで出産を見に行かせていただいたり本当にお世話になってしまいました。今思えば、なんと親切で寛大なブリーダーさんたちに囲まれていたのかと思います。かくしてキャンディは出産が始まりました。 ところが、とても強い陣痛がくるにもかかわらずまったく子犬は出てきません。キャンディが死んでしまうのではないかと思うほどのすごい陣痛が来ていました。間隔もほとんど無いくらいにいきみます。 自分も子供を生んだことがあるのでこれは絶対におかしいと思いました。前もって連絡していた獣医さんに電話をし、大至急病院へ連れて行きました。朝方の4時頃の事です。今思うとよく連絡を受けてくださったと感謝しています。 案の定産道はまったく開いておらず、このままでは母体も赤ん坊も危険だと言う判断でした。すぐに帝王切開です。時間がありませんでした。 赤ちゃんはあきらめなくてはならないかもしれないと不安な気持ちがよぎりました。そしてキャンディにこんなに苦しい思いをさせてしまうことになってしまって申し訳なさで一杯になりました。 また本に書いてるままを信じて人のいう事をそのまま信じて、犬は安産だからポロポロ産むのよとたかをくくっていた自分にきがつきました。 ましてやブリーダーさんの家での出産はそれはスムーズに行われていたのでしたから・・・それに、多くは知らなくても良いことだってあるのです。。。。。 キャンディの初めての仔はブルーの女の子が2頭にブルーの男の子が1頭トライの女の子が1頭でした。 ブルーの女の子1頭と男の子1頭はそれは綺麗な柄の犬でした。雄は貰い手がいるので残すのは雌と決めていました。 一番有力な女の子の蘇生は獣医さんにしてもらいました。素人が蘇生しても(時間外だったので頭数も多かったし手伝うことになってしまった)助けられなかったらと思うと欲が出たのかもしれませんでした。 ところが他の子は蘇生したのに、獣医さんの持つ仔と、綺麗なブルーの雄が蘇生しないのです。麻酔がかかりすぎたのか、時間が掛かってしまったのか、そのうちに獣医さんの蘇生してくれた子は静かに天国に登ってしまいました。 慌てたのは私たちです。蘇生した仔はパパに任せて、必死でブルーの雄を蘇生しようと頑張りました。キャンディのおなかの中からでてきて2時間後、やっと正常に呼吸もできるようになり血色の良くなった仔犬がいました。 このとき、私はこのブルーのオスを残そうと思いました。長い間呼吸が乱れた状態でもしかしたら脳に酸素が回らなかったかもしれないと不安になったのもありましたし、何より自分の手で、私達のもとへ引き戻したようにも思ったからです。 獣医さんは普通は駄目になってしまうのですが飼い主さんの根性勝ちですねと微笑んでいってくれました。 ただキャンディが縫合が終わり目覚めた時に、仔犬を1頭死なせてしまったこと、あんなに痛く辛い思いをさせてしまったことが、涙と一緒に噴出してきてしまい、仔犬よりもまずキャンディが一番大事なんだと痛感し泣きじゃくってしまいました。 色んなことをたった一度に経験できましたが、繁殖とはなんと大変で、一つ間違えば愛犬の命を引き換えになってしまうかもしれない怖さや、とてもお金の掛かるものなのだ痛感したのです。。。そして母親になる犬は命をかけて赤ちゃんを産むのだという事も心に刻み込まれました。 このときに生まれたブルーの雄が、私たちをDISCの世界に導いてくれた名犬ダッシュになるのです。でもとても値段の高い犬になってしまいました(爆笑)買ったほうがず〜っと安かったかもしれません(笑)それにこんなに恐い思いもしなくて済んだかもしれません。でも神様は私家族の努力に免じてダッシュを授けてくれたのだと思うことにしました。たとえ脳に酸素が回っていなくて障害が残ったとしても・・・ 素晴らしい犬を購入できる以上の金額をかけて、ダッシュは私達のもとに産まれてきました。。。。 後に起きるブリーディングで躓いた時に、キャンディの交配に伺ったブリーダーさんに、 『ブリーディングは、嬉しいこともたくさんあるけれど、たくさん経験を積むうちには悲しいことにも出会ってしまうの。色々な経験をして反省しながら、次にそれを活かす努力をしてみんな良いブリーダーになるんですよ。せっかくもらった命だから、なんとしても助けてやりたいと頑張ってしまうことが、犬を逆に苦しめてしまうこともあるかもしれないけど、何とか助けてやりたいと、私はいつもそうしてしまうのよ。だって犬は自分では何も言えないのだから・・・。最善を尽くせば助かるかもしれないもの・・・何かおかしいと気がついてあげられるのは犬を見ている自分しかいないのだから。。。 気づかないで手遅れにしてしまうよりも、 気づいてあげられることがどんなに犬にとってありがたいことか・・・・・』 と励ましてもらったことがどんなに嬉しく励みになったことか・・・そのブリーダーさんの考え方は今でもわたしの大切な教訓になっています。犬が明らかにおかしい表現をする前に気づいてあげられる自分でいたいといつも思うのです。 そしてできるだけの事をしてあげようと思います。。。 私が産ませた命だから、犬は、産みたくて産んだわけでは決してないのだから・・・ vol.8へ続く…。