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★16★ マリン16歳 2009年 

新しい年を迎えマリンは16歳になりました。よたよたとマリン用の部屋で歩きまわり、疲れるとぐ〜ぐ〜と眠る毎日です。耳が聞こえないので寝ている時でも起きているときでも、マリンの前からアクションを起こさないと体を触るだけでもびくっとして驚きます。こんな年で甲状腺の薬も切ってしまって万が一にも心臓が止まっちゃったらと気を使って暮らしていました。


マリンの足は少しづつ体重を支えるために変形し、うまく歩けないことが多くなりました。自力で起きられなくなり、立たせてあげるとうれしそうにしっぽを振り振りあるいていました。眠っていて起きるとそばに人がいないと判るらしく、何かというと私を呼びました。台所に立つとすぐに【ひゃんひゃん】と呼ぶのでまったくもうと文句を言いながら相手をしつつご飯の支度をするような毎日が繰り返されていました。


甲状腺の薬を切ってからマリンの体重は増え続けていきます。激やせだった時には軽々と動けた体は自身の重さに耐えられなくなり次第に立てる時間が短くなっていきました。でも体の状態がいいのですから激やせしていたほうがいいとは思えません。さらに食べられる日と食べられない日があったり、便が出にくくなったり…。

そしてついにほんの少しの間も立てなくなる日が来てしまいました。16歳と1カ月でした。
寝たきりになってもマリンは相変わらず目は見えていてみんなを眺めるのが好きでした。でも次第に体を起こしておくことも辛くなりクッションなどで支えを作って起こしてあげるようになっていきました。

恐ろしかった形相も少しづつふっくらして昔のマリンにちょっぴり戻ってきたように見えます。寝たきりになってしまってからふと疑問が起きます。筋炎っていう病気だったんだろうか?ステロイドを切ってずいぶん時間が経ちました。顎が開かなくなることもないままに食べれるようになってからは体重の増えて肉も付いていました。

自己免疫性疾患が完治することはありません。これってどういうことなんでしょう?自分の免疫が自分の筋肉を破壊していくから筋肉がなくなっていくはずなのに、その免疫を抑えなくなっているのになぜ増えるんでしょう?

そして疑問の答えを自分なりに見つけ出しました。


きっとマリンは新陳代謝を良くしておこうと多少低下気味だった甲状腺のホルモン剤を入れていたことが、逆に過剰症をおこしていたのではないかと…。年をとって一時期は足りなくなっていたホルモンももっと年をとっていけば十分になっていたのかもしれないのです。

甲状腺機能亢進症になってしまったら体重が減って筋肉だって落ちるにきまっています。。病気でなるのではなく投薬のせいだった。。。なんてことしてたんだろう…。飲ませているのならもっと良く観察するべきだった。それに具合が悪くなったとき最初の受診でなぜ甲状腺のホルモン値を測ってもらわなかったんだろう。。。そのときに亢進症の数値になっていたら今はまた違った時間だったかもしれないのに…

今となってはただの自分の病気に対する怠慢だったとしか思えない。検査を決めるのは獣医さんだけではなく、毎日を一緒に暮らしている自分が疑問に思ってさえいれば検査を希望すればいいだけだったのだから。。。

今思えば、薬で筋肉を破壊してるんだから血液検査でそういう数値が出るのは当然。逆に低下症だろうから飲ませているなら安心と飲ませたからこそ起きるかもしれない逆の病気を、あの時、診断の種類の中から排除してしまったなんって。。。

かかりつけの獣医さんにもこう考えているのですがと聞いてみました。

見解はほぼ同じ。でも、病名は違っても、ステロイドを使い続けてきたことで逆に長生きできている可能性もあるのだし、甲状腺のホルモンを入れていた分長生きしてきたのだろうから、落ち込まないようにと慰められました。犬たちは人のように話すことができないから見えている範囲と血液からわかる数値上の異常とかで診断するしかないわけで、誤診というのとは違うのだと思います。まして、私は犬たちにやたらと検査をすることが好きではありません。できるだけ少ない検査で、できるだけ臨床症状から病気を見つけてほしいと願っているのです。それは犬が病院を理解できないから、ストレスが大きくかかってしまうからでしょう。

マリンは最後の最後にまた私に大きな勉強をさせてくれました。彼女の体がちゃんと臨床症状を起こして答えを導き出したのです。愛犬の状態が獣医さんから教えられた状況と違う方向になっていったら診断は正しかったかどうか疑問を持つことが大切なのだろうと思います。間違いを指摘するのではなく、正しい治療を選択するために。。。


寝たきりになったマリンはその後眼も見えなくなっていきました。明るさも感じなくなって昼と夜が逆転し看病する側には大きな負担がかかるようになっていきました。でも食べ物はわかり亡くなるひと月前までよく食べて私を喜ばせました。240円の缶詰を一日に5缶も食べて、マリン一人に食費だけでこんなにかかったらうちは破産しちゃうよと冗談を言っていたのが昨日のことのようです。

脳に委縮が起き始めたのかマリンは頭を背中につけるようにのけぞって、尻尾は直角に上を向き、その姿勢でいることが多くなりました。直しても直してももがいてその形になってしまいました。この恰好が辛くないのだと気がつくまでに数日かかりましたが、理解できればマリンの好きなようにしてあげようと思うようになっていきます。


だんだん食べ物を食べなくなり、ふっくらしていた体はまるで風船がしぼむように一日一日小さくなっていきます。飲み込まないと拒否しているのに、何とか元気になってほしくてずいぶん無理やり流動食や水を飲ませました。こんなことをしてもマリンは喜ばない。でもやめられない。。。


介護生活に入ってからはじめて自分のしていることに自信が持てなくなっていきます。そして悩んでいるうちに無理矢理でも飲み込まなくなっていきました。最初は水なら飲みこんでいたものがついには水も受け付けなくなりました。脳からの発作で起きるであろう遊泳運動もしなくなり、腰の骨の部分がうっすらと床ずれのように赤くなり始め、床ずれ予防のクッションを置いて体位を変えるようにしてから2日ののち、マリンは天使になりました。老衰といってもよい状態でした。


24時間のうち20時間も眠ったままの毎日で、マリンが天使になるだろうその瞬間には立ち会えることはないのだろうと覚悟していました。もうマリンには自分の意思もないのだし、私がそばにいようといなかろうと何も分からなくなってしまったこの状態ならもしも一人で逝ってしまっても淋しいとも感じないのだろうと納得するようにして過ごしていた数日でした。

夜中になるとマリンは決まって起きるのです。だから、その時もまだ大丈夫なんだという安心感を持ってマリンの吠え声に答えて彼女に私の声が聞こえていなくてもいつもどおりに「なぁに?」と振り返りました。マリンのもとに行き、様子がおかしいことに気がつきあわてるまでの数分間、マリンが逝ってしまうのだとは思ってもいませんでした。いつ逝ってしまってもおかしくないと思っていたはずなのに本当のその時には思わないものなのでしょうか。。。


マリンの心臓は私が彼女の体を抱え上げた後静かにその動きを止めました。マリンは私の腕の中で16歳7カ月と4日という長い命の鼓動を止めたのです。。。


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